既存住宅の空室をサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)に改修した「ゆいま~る高島平」。日本で初めての「分散型」サ高住として注目されてきました。
今回は、「ゆいま~る高島平」ハウス長に、ハウスの特徴や課題、どのような思いで運営に携わっているかについて聞きました。
ハウス長が語る「ゆいま~る高島平は“希少な”サ高住」
──「ゆいま~る高島平」の特徴をご紹介ください。
「ゆいま~る高島平」ハウス長・久保田旭(以下、久保田) 「ゆいま~る高島平」は、ユニークな「分散型」のサ高住です。
既存のUR団地の空室をバリアフリーのサ高住に改修したことで、広さを確保でき、かつお手頃な価格で提供することができます。
全国のサ高住の居室(専用部分)の平均の床面積は22㎡で、40㎡以上は4.3%しかないそうです。また、居室にトイレ・洗面・浴室・キッチン・収納の5点がそろっているところは20%弱しかありません。(出典:一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析(R2.8月末)」)
しかし、「ゆいま~る高島平」はすべての居室が40㎡以上、5つの設備が備わっているので、サ高住として希少です。
団地の中にあり、バス通りにも面しているので、周囲環境が静かすぎることがなく、保育園や個人店舗の活気も感じる生活環境です。
──「ゆいま~る高島平」のよいところはどんなところですか?
久保田 多くのサ高住は、出かけるときにフロントの前を通るために、施設にいるという雰囲気を感じがちです。しかし「ゆいま~る高島平」では、出かけるときに必ずしもフロントの前を通る必要がなく、これまでの暮らしと変わらず気ままに過ごせます。フロントは、居住者が暮らす棟に隣接した棟の1階にあります。
皆さん、ご自身で好きな時に好きな食事をして、外出し、自由に暮らしています。「施設は嫌だ、束縛されたくない」という方にはぴったりです。
それでいてサポートがあるので、いざというときにも安心できるのが、大きなメリットです。
──具体的なサポートの内容を教えてください。
久保田 毎日、ご無事を確認する「安否確認」と、暮らしのあれこれの相談に乗る「生活相談」があります。「生活相談」ではスマホ操作のサポート、粗大ごみ出しサポートなど、同居家族に頼むようなちょっとしたことにも対応します。
また、急に具合が悪くなったときの「緊急対応」も行っています。ハウススタッフが365日日中フロントにいて、緊急時には救急車を呼び、日ごろのご様子を病院スタッフにも共有し、病院でご様子を確認して、ご家族や保証人にご連絡します。夜間の場合は、提携先のセコム株式会社に通報が入り、セコムのスタッフが駆けつけて、そこからハウススタッフにも連絡が入ります。
──オプションの有料サービス「ほっとサポート」も、居住者の皆さんによく利用されていますね。
久保田 一番喜ばれているのは、病院への付き添いですね。車椅子の方には車椅子を押して、地域の病院まで付き添うこともあります。薬を、ご本人の代わりに受け取りにいくのも好評です。
買い物代行も、幅広く行っています。お弁当の購入、リモコンの電池購入、通販の購入代行やフロントでの受け取り、などなど。
ハウスから徒歩10分以内の距離で買えるものなら代行しています。便利な立地なので、ハウス業務の合間に対応できます。
──食事について、「ゆいま~る高島平」ではどうなっていますか?
久保田 「ゆいま~る高島平」に食堂はありません。皆さん、3食自炊をされるか、近所で外食を利用されています。
宅配弁当などのサービスも充実している地域なので、複数から選ぶことができます。フロントに資料を置いてご紹介しているので、ご相談ください。
「ゆいま~る高島平」では「食の楽しみ」の機会を大切にしていて、居住者がフロントに集まるランチ会や、希望者が購入する食のお取り寄せ企画などを実施しています。
発案は居住者の方からのことが多く、フロントは、食の楽しみを「つなぐ」「届ける」という気持ちでサポートしています。
またフロントで、食品の販売も行っています。これまで、アイスクリーム、レトルトの高級カレー、珍しいクリームはちみつ、パックの赤飯、緑茶などを扱ってきました。これらはすべて、居住者からのアイデアで実現したものです。
住んで「楽しい」と感じてもらえるハウスづくりを大切に
──ありがとうございました。つぎに久保田ハウス長ご自身についてもおうかがいします。「ゆいま~る高島平」に来る前は、どんな仕事をしていたのですか。
久保田 2023年12月から「ゆいま~る高島平」ハウス長になりました。その前は、2020年12月から「ゆいま~る那須」(栃木県那須郡那須町)ハウス長を3年間務めました。
実家は東京ですが、私自身は田舎暮らしが好きで、3年間住んだ千葉県勝浦市に愛着を持っています。
岐阜県恵那市で農業をやっていましたが、その後那須に移住して、畜産飼料の会社で飼料の研究に携わりながら鶏、牛、豚の世話をしていました。
その那須で、「ゆいま~る那須」のスタートに携わった方、現居住者の方と知り合い、声をかけられて2020月1月に入社し、「ゆいま~る那須」で働くことになったんです。
東京に戻ってきたのは約10年ぶりです。
──高島平の良さはどんなところだと感じていますか。
久保田 坂がないから楽で便利だな、というのが一番ですね。年をとったら、以前はなんでもなかった階段や坂を歩くのが、とても負担になり、外出や買い物がおっくうになりがちです。坂が多い街に比べたら住みやすいので、高齢者にやさしい街だなと思います。
23区の中では比較的家賃が安いのも、住む人にはメリットですね。駐車場なども安い。
そしてこの広大な高島平団地。私が今まで暮らしてきた市町村がすっぽり入るぐらいの人口が、ここで暮らしているんです。ほかの地域と同じく、高齢化が進んでいます。
そんな高島平では、介護も医療も事業者の数が多いので、介護サービスも医療サービスも本当に選択肢が広いです。病院へ行く救急搬送の距離も近い、ケアマネさんも多い。介護付有料老人ホームも多く、移りたいとなったときにも選択肢があって困りません。
──ハウス長としてどんなことに力を入れていますか。
久保田 ハウス長やスタッフが行っているのは、生活のコーディネートです。単なるハウスのフロント業務ではありません。居住者を主軸に、居住者のために、地域の介護・医療サービスとの連携も密にやっていきたいと思っています。
イベントはコロナで一旦減っていたのですが、最近増えてきました。
「こういうイベントが、あったらいいなあ」と希望する人がいて、「じゃあやろう」という企画の得意な人がいて、「なら私も手伝う」とそれにのってくれる人、「やるなら私も参加します」という参加する人が集まってくる。こんなふうに、居住者さんの発案がイベントにつながることが多いですね。フロントでやるのは、日程調整、場所の提供と、周知ぐらいです。
私としてはイベントを通して、居住者さん同士も、顔を合わせたり知り合いになったりしてほしいという気持ちがあります。「初めてお隣の方を知った、話をした」という声をたくさん聞きます。
──居住者がイベントの参加者であり、発案者、開催者でもあるんですね。
久保田 イベントをよく企画してくれる人が4人、企画話にのってくれる人が3人ぐらいいて、イベントによく来てくださる方は全体の1/3くらい。もちろん、イベントにあまり興味がなく、のんびり好きに楽しんでいる居住者もいます。それも自由です。
気ままに自由に暮らすなかで、「楽しそうだな」「あそこに行けば誰かいるな」と、ふとしたときに気軽に来てほしい。来られる集いの場があるといい。
そんな風に「ゆいま~る高島平」は、『北風と太陽』の太陽みたいに、交流のきっかけをつくっていきたいですね。
「ゆいま~る」でお暮らしいただくなら、お元気なうちにコミュニティに参加し、楽しく過ごしてほしい。そういうのが一番、介護予防、認知症予防にもつながると思うんですよ。
便利だなと思って入居していただくだけでなく、「ここで暮らすのが楽しい」という感覚、ワクワクする感覚を持ってもらえたらうれしい。「ゆいま~る高島平」に愛着を持ってほしい。そんなハウスにしたいと思っています。
もしご興味がありましたら、ぜひイベントをやっている日に「ゆいま~る高島平」をご見学ください。前もってご希望いただければ、居住者の方からもお話を聞くこともできますよ。
「ゆいま~る高島平」で選択肢を増やす暮らしを
──「ゆいま~る高島平」をおすすめしたいのはどんな方でしょうか。
久保田 まず、バリアフリーというハード面の安心がほしい方。自宅内の階段、段差が危険になってきたら、安心できる住まいに住み替えをおすすめします。
そして、人とゆるくつながりたい方です。
先日入居された方が、奥さんを亡くされたばかりで、「やっぱり1人は寂しいんだよね」とおっしゃっていました。そんなふうに「寂しいな」と思うこともある人には、1人でも気ままに過ごせて、イベントに顔を出してゆるくつながることもできる「ゆいま~る高島平」はぴったりだと思います。フロントだけじゃなく、ハウス内のご近所でも、困ったことを相談できる隣人ができるかもしれません。
また、高島平の近くに住んでいる子世代が、離れて暮らす親を行き来できる距離に呼び寄せるのにもおすすめです。
親も子も、元気なうちはお互い気ままでそうそう顔を合わせないくらいで構わない。親も施設の管理に縛られず、好き勝手に暮らすことができる。でも、もしも何かあったときは、親のまわりにフロントスタッフがいて緊急対応できる。そんな暮らしが「ゆいま~る高島平」では可能です。
親が元気な間は、親の好きなように暮らせばいい。本人らしい暮らしができつつ、いざとなれば子が駆け付けられる距離感がいい。でも、たとえば平日日中仕事中だと、何かあっても子がすぐに駆けつけることはできない。そういういざというときのために、「ゆいま~る高島平」には日中365日スタッフがいます。ご家族にも安心していただけると思います。
──最後に「ゆいま~る高島平」の魅力について、あらためてお願いします。
久保田 「ゆいま~る高島平」のイベントやコミュニティには、もちろん参加するもしないも自由です。そこも気楽なところです。ただ「参加できる」という選択肢が増えるだけです。
参加すれば、同じところに住んでいるお互いの顔が見えるし、ゆるいつながりができれば、そこからまたできることも増えてきます。
考えてほしいのは、「楽(ラク)」と「楽しい」は同じじゃない、ということです。
住み替えて、ラクな生活がしたいのか、楽しい生活がしたいのか。
なんでも人にやってもらってラクをしたい、という方には、「ゆいま~る高島平」は向いていないでしょう。
保証人のこと、不動産のこと、家財道具の片付け、認知症になったら、終末期(完成期)の迎え方、などなど。不安があるのは皆さん同じで、一人の不安はみんなの悩みでもある。それをお互い話しあえるようなコミュニティを、「ゆいま~る高島平」につくっていきたいと考えています。
どうぞお気軽に見学に来てください。
(2024/9/10まとめ)