居住者インタビュー「僕が選んだ部屋」
深澤健一さん(69歳)
■インタビューのお願いにあがったときは、あまり気が進まないというふうでおられましたが、今日は、お出ましいただきありがとうございます。
気が進まないというより、たぶん僕はそちらが期待するような話はできませんよという意味で。(僕は)基本ひねくれ者だから、話としてはつまらないだろうなと。
■いえいえ、そういう方のお話なら、なおさらお聞きしたい(笑)。普段のありのままの暮らしの様子を伺えればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。ゆいま~る那須にはいつからお住みになっているのですか。
昨年(2013年)11月下旬ごろからです。東京の家を引き払い、ゆいま~る那須での暮らしに完全に切り替えました。
ここでの暮らしはとても気に入っています。細々と気になることがあったとしても、総じてみれば、些細なことです。ただ、あえてひとつだけ挙げれば、洗濯物を干す場所の前が雑木林なので、虫がつくことかな。だから外に干さないで、乾燥機を使っています。そんな程度。それよりも何もよりも、死に場所――ここなら死んでも大丈夫、 という場所が見つかったことで、とても大きな安心感をえられたのが一番よかった。そのことに感謝しています。
僕には基本的に世捨て人願望があって、とはいっても、山奥に一人で庵を結んで棲むとか、自給自足をするなどといった「潔い世捨て人」になるほど、徹底して腹をくくれないから、まあ、「中途半端な世捨て人」なんです。それに「センチメンタリスト」。妻を6年前に失くして、今はつまらない時間を過ごしています。これまで過ごしてきた時間がとても幸せだったから、過去ばかり思い出してしまう。このように昔を懐かしみながら過ごす場所として、ゆいま~る那須の僕の選んだ部屋はぴったりなんです。
■どのようなお部屋なのですか。
見学会で案内してくださったとき、敷地の端っこにある、となりの家も見えない、窓からは雑木林の木々ばかりの、しかも南向きでない部屋です。人生の残り時間を一人静かに自分と向かい合って暮らしたいと思っていた僕はとても気に入りました。
以前、住んでいた調布のマンションは最上階でとにかく日当たりがよすぎた。日光が部屋の奥まで射すので暑いから、結局カーテンを閉め切ることになる。だから景色は見えない。それが今ではカーテンで光を遮る必要もなく、木々の緑をありのままにみることができる。太陽の光も木漏れ日となってほどよく入ってくる。木々の緑がカーテンの役割を果たしてくれて、最高の景色を眺めながら暮らせることがありがたいです。
残り少ない居室のなかで「これしかない」ではなく、「この部屋だからこそ」と選んだ。他の高齢者住宅にこんな条件のところはないとわかっていたので、即決しました。
■高齢者住宅を探し始めたきっかは何だったのですか。
妻が亡くなり一人になったある時、民生委員の人が訪ねてきて、「ああ、僕もとうとう人から心配される身になったんだ」ということを感じ、「年をとるってことは人から心配されることなのだな」と思い知りました。東京のマンションの部屋で、もし一人で死んでしまったらどうなるか。マンションの運営会社は売りにくくなって困るだろうし、隣の人は「なぜもっと相談してくれなかったのだろう」と悩むだろうし、民生委員は「私の力不足だった」と反省するだろうし……。そんなふうに考とえたら、やっぱり、このままじゃまずいなと。「自分の身体をとにかくどこかに収めたかった」という感じです。
つまり「自助」。自分で自分の始末をつけなければならいと思い立ち、高齢者住宅のことを調べて、いくつか見学もしました。僕は福島県の出身だから郡山でも探していたとき、近くのゆいま~る那須が検索でヒットした。そのとき「ここなら部屋の窓の向こうに故郷の福島を感じながら過ごせるかな」と思ったんです。それに狭い鉄筋コンクリートの老人ホームはいやだった。木造で温かみのあるゆいま~る那須の部屋は14坪と、ある程度広いし、自由に放し飼いにしてくれるのもありがたい。
■コミュニティのある暮らしについてはどうでしょうか?
冒頭述べたような「世捨て人」ですから、コミュニティに対する意識は薄かったのですが、それなりに馴染んでいます。麻雀の仲間にも入れてもらうし、カラオケにもみんなで行ったし、夕食は食堂でみんなと食べるし。餅つきや雪かきもやろうと思っています。みんなの後ろにいて最後の足りないところ補うというのが僕の性分というか、生き方なので、ここでもそんなふうにやっていこうと思っています。
コミュニティのなかで僕が決めているのは、「世捨て人の礼儀として、誰とでもうまくやる」ということ。いいかげんな性格なので、ほどよいつきあいができて助かります。また、ズボラなので食堂はありがたい。ウィークデイは夕飯、土日は昼食と、毎日1回は必ず利用しています。でも、朝ごはんは自分でしっかりつくって白米を食べています。
■ふだんのくらしの中での楽しみは?
散歩です。東京にいるときから歩くことを自分に課していたので、こちらでも続けています。3つコースができました。一日に10キロくらい歩きます。
那須に住むことを周りの人に告げたら、ある友人がお餞別に「熊よけの鈴」をくれたんですよ。最近、この付近にも熊の目撃情報があるので、これが思いもよらず役立って、鈴を鳴らしながら歩いています。
それと、東京に住んでいるときよりも、東京が面白くなった。月に1~2回は東京に出かけて、友人・知人と会う隙間に、事前に調べておいた美術展や演劇を鑑賞して、帰ってくる。東京に住んでいると、いつでもすぐいけると思って、結局、そんなに出かけないんだよね。そういうことで今は東京にいる時間がとても充実しています。