「親をサポートするような気持ちで」――ゆいま~る高島平ハウス長に聞く
既存住宅の空室をサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)に改修した「ゆいま~る高島平」。日本で初めての「分散型」サ高住として注目されてきました。
今回は、ゆいま~る高島平ハウス長に、高島平の特徴や課題、豊富のほか、どのような思いで運営に携わっているかについて聞きました。
◆ハウス長が語る「ゆいま~る高島平は”希少な”サ高住」
――ゆいま~る高島平の特徴は?
ゆいま~る高島平ハウス長・安東健雄(以下、安東) 既存のUR団地の空室をサ高住に改修したことで、広さを確保でき、かつお手頃な価格で提供することができます。
全国のサ高住の平均の広さは22㎡で、40㎡以上は4.3%しかなく、居室にトイレ・洗面・浴室・キッチン・収納の5点がそろっているところは2割弱しかありません。しかし、ゆいま~る高島平はすべての居室が40㎡以上、5つの設備が備わっている希少なサ高住です。
さらに、空室だけを改修しているので、隣には若い人や、ファミリーが住んでいるというように、ふつうの住宅の中に高齢者住宅がある「分散型」の珍しいサ高住です。オープンした当時はNHK等メディアの取材も多く、注目されたと聞きます。
――どんな方が住んでいるのでしょう。
安東 自立の方が多いですが、要支援、要介護の方も地域の介護サービスを利用しながら暮らしています。男女比は男性25%、女性75%で、ご夫妻もいらっしゃいます。年代は70~90代までと幅広く、平均年齢は82歳、90代も6%いらっしゃいます。
――ゆいま~る高島平のよいところはどのようなところですか。
安東 高齢者住宅ですが、「生活の時間が決まっている」「好きに外出できない」「監視されているよう」というようなことはまったくなく、自由に暮らせることです。フロントは隣の棟にありますので、出かけるときにフロントの前を通ることもなく、プライベートが確保されています。特に男性入居者の方たちは、ゴルフ三昧、水泳三昧、登山、旅行と、趣味を謳歌している方が多く、好きな時に好きな食事をとり、外出し、自由に暮らしています。施設は嫌だ、束縛されたくないという方にはぴったりだと思います。
自由の「極」にあるハウスです。ほかの高齢者住宅と比べて、こういうハウスもあるんだと感じていただければと思います。
――具体的なサポートの内容を教えてください。
安東 毎日の安否確認と生活相談があります。安否確認は、セコムの見守りホンを利用しています。端末をお一人ずつお渡しし、毎日決まった時間に鳴りますので、ボタンを押していただくだけです。押していないとフロントに連絡が来るようになっていますので、お電話をして安否を確認し、出られない場合は、お部屋に伺います。緊急対応も予想されますので、体温計、血圧計、救急箱、携帯電話持参で、いざというときは緊急搬送します。うっかり外出していない、という場合は、戻られたらご連絡ください、というメモを残していきます。
夜間の場合は、セコムに通報が入り、セコムからスタッフに通報が入ります。必要ならば最寄りのスタッフが駆けつけます。また、夜間に水漏れした、という場合でもセコム通報OKです。セコム成増支社からバイクで駆けつけるので、15分以内で来てくれます。
生活相談としては、ここ2カ月の例として、スマホ・タブレット操作のサポート、受診する前日の連絡、引っ越し業者のサポート、電気ガス水道等手続きの代行、ショートステイの見送り、冷蔵庫・キッチンの片付けサポート、粗大ごみ出しサポートなどでした。
新型コロナワクチン接種の1回目、2回目の時は、個人ではなかなか予約が取りづらかったので、フロントが代行して予約をとり、好評でした。
――生活相談以外にサポートはあるのでしょうか。
安東 料金はかかりますが、「ほっとサポート」があります。通院の同行、買い物代行など、突発的でフロントから離れたところに出かける場合のサポートです。介護職員初任者研修済みのスタッフが行い、30分912円かかります。比較すると、たとえば介護保険では通院に同行して病院にまで行くまでは保険適用となりますが、その先終わるまで付き添って待つということになると、保険適用外となり、時給2500円とか3000円かかってしまいます。急に具合が悪くなったので同行してほしい、車いすに乗って病院まで行きたいなど、想定外の困りごとにうまく使ってほしいと思います。
――介護が必要になった時は、どのような暮らしになりますか。
安東 まず、介護認定を受けていただき、介護事業所と契約をし、介護ヘルパーさんが来てケアを受けてもらうことになります。認定の受け方がわからない、という時はもちろんご相談ください。一連のサポートをいたします。認定を受けたらケアマネと連携し、情報共有しながら、本人の状況や何が必要かなど、意見をお伝えもいたします。
――食事のサービス等はどのようになっているのでしょうか。
安東 基本、居室にキッチンがあり自炊です。食堂がないのですが、近くにスーパーや八百屋さん、肉屋さんなど団地内にあり便利です。いろいろな配食サービスもあり、フロントの隣にはワタミの宅配が入っています。また、定期的に生協のお惣菜、豆腐屋の弁当や総菜の注文の受付、月1回、行事にちなんだお取り寄せもしています。フルーツサンドや桜餅、ウナギなどを楽しみました。
――サークル活動などはありますか。
安東 コロナ前はフロントで行っていましたが、狭いので、今は団地の集会所を借りて映画鑑賞、フラワーアレンジメント、絵を描く会などを行っています。フロント前の外では、UR団地の住人も一緒に、ラジオ体操や、フレイル予防のため「10の筋トレ」、輪投げなどを行っています。参加する・しないは自由です。
コロナ前は、フロントで女子栄養大学の学生さんが主催する食事会もしていたそうです。
――認知症になっても住み続けられますか。
安東 安否確認でボタンを押せなくなると難しいかもしれません。夜に帰ってこない、より見守りが必要になるなどの状態になったら、一概に言えませんが、保証人の方や医師の意見を聞きながら、どのような形が一番いいのか話し合える場を作ります。本人にとってどうしたら一番安心な暮らしができるかを考えて決めることになると思います。
◆ハウス長に聞く「相談できる息子がいる、という関係づくりを」
――ありがとうございました。つぎに安東ハウス長ご自身についてもお伺いさせていただきます。安東さんは2020月6月入社し、9月からハウス長になられたとのことですが、なぜ、この仕事に就かれたのですか。
安東 前職は銀行員でした。銀行にこのまま居続けるか、転職するかという年代になった時、転職を考えました。次する仕事は、以前から、高齢者に関する仕事がしたいと考えていました。
私は15歳の時に進学で実家を離れ、高校、大学、社会人から現在まで実家に帰る機会がなく、両親に何も出来ていないという償いの気持ちから、両親に出来ない分を他の人にしようと考えました。また、子どもの小学校のPTA会長の経験から、学校は地域の先人たちにとてもお世話になっている、おじいちゃん、おばあちゃんたちのおかげで地域が存続して成り立っていることを知り、いつか地域に恩返しをしたいと思っていました。
さらに、銀行勤務の最後の数年間は自治体を担当していたのですが、どこの行政でも高齢化が重要な課題だったので、そこに貢献するような仕事が出来たら、と思っていました。今後は多死社会を迎え、自分も老後に向かっていく中で、高齢化の課題を解決するような社会を、自分のためにも作っていきたいと思いました。
――実際に転職していかがでしたか。大変なことはありましたか。
安東 私がハウス長になってから常にコロナ禍にあったので、イレギュラーな日が続き大変でした。居住者とどのように信頼関係を築いていくのかにも気を配りました。空室をどう埋めていくのかも課題です。
また、思いのほか、地域にゆいま~る高島平が知られていない、認知度の低さの問題もありました。一棟丸ごとの高齢者住宅のように施設名が書かれた大きな看板があるわけでもありませんし、高島平団地内に高齢者住宅があることを知らない人が多いのです。
近隣にチラシを配布する、団地の住人も巻き込んでラジオ体操などを行うなど、認知度を上げていく努力をしています。
――先ほど、趣味に没頭している男性が多いと聞きましたが…。
安東 そうですね。自由な暮らしが気に入っている男性は多いです。そういう方たちは自由参加のハウスのイベントには顔を出されず、好きに過ごされています。ある意味、自由・自立を体現してくれているのかなと思います。男性高齢者のひとつの住まい方になっているのではないでしょうか。
――今後、年数とともにサポートが必要になる方も増えてきそうですが。
安東 自宅の売却、引っ越し、書類作成サポートなど私たちスタッフが相当関わることもあります。お子さんが海外におり、スカイプで話しながら、本人だけではできない状況をサポートした例もあります。「自立だから大丈夫」という方も多いですが、ずっとその状態を維持していくのは難しいですから、なにかあったらサポートするという気持ちは持っていたいです。
――抱負や、これからやってみたいことはありますか。
安東 私自身、からだを動かすのが好きなので、フレイル予防と言いながら、筋トレ体操など自分も楽しんでいます。交流ツールを増やして、UR団地の皆さんにも、あそこでおもしろいことやっているぞ、と言われるように、地域にアピールというか、コミュニティに入らせてもらうようなことをさらにやっていきたいですね。オリンピックで話題になっただれでも楽しめるスポーツ「ボッチャ」も今後スタート予定です。
――ハウス長として大切にしていることはなんですか。
安東 私たちスタッフがいてよかったなと思ってもらえるハウスにしていきたいです。家にいて相談できる息子、娘がいるという関係づくりです。すべての居住者に届くようにしたいです。安否確認、生活相談で、どれだけサポートできるかですが、居住者の皆さんが自分たちの親だと思って取り組んでいきたい。100%ではないけれど、家だと思ってもらえるようにしていきたいですね。
――最後に高島平の魅力について、あらためてお願いします。
安東 高島平は団地が出来て50年経ちますが、URが丁寧に改修し、賃貸・分譲合わせて大きな街を作り維持してきました。地域には小学校、中学校、高校があり、老若男女暮らしています。都立赤塚公園の散歩コースも充実しており、緑豊かな環境です。50年のコミュニティがあり、ゆいま~る高島平もそこに参加しながらの暮らしがあります。
高齢化が進んでいますが、周辺に介護サービスがたくさんあって選ぶことができるし、病院も大きい総合病院2カ所のほか数多くあります。
高島平は介護認定が進んでいない地域だそうです。それは、50年という長いコミュニティの中で、無償で世話を焼いてくれる人が多くいるから。私たちは事業者ですが、受け入れてもらえる懐があるのが団地コミュニティのいいところかなと思っています。「自由」「自立」「プライベート確保」しつつ安心のある暮らしをどうぞ。(2022/6/17まとめ)